先日の金曜日、友人からの電話でこんな会話を交わした。
「あ、どうも浅川さん。実はちょっと能力者の人を紹介してくれないかな?」
「え?どうしたの?」
「いやああ、実は僕も混乱しているんだけど、気功を始めたのは知ってるよね」
「うん。聞いたよ。」
「それで、気功始めたら、色々見えないはずのものが見えたり、聞こえたりしてるんだよね。」
「そうなんだ。」
「で、ちょっと前から神様と名乗る人達がからだの中に入ってきて、僕の躰使って色々しゃべるんだよね。それで、コントロールするのが難しくって、力がある人を紹介してもらいたいなと思って。」
「あ。わかった。じゃあ、まず明日、僕が行くね。まあ、僕はなんにも力持っていないけど、色々経験はあるので、解決策も分かるかもよ。」
その友人は、人柄もいいし、そんな冗談をいうタイプではない。また、精神的に不安定な部分を持っていたかというとそれもない。それなのに今の会話は、相当に現実離れしている。普通ならまともに取り合う事もないかもしれないし、どちらかというと能力者というよりは病院を勧めるべき内容だろう。
しかし、彼の語り口からとにかく会うべきだという感覚が起こったので、翌日会うことにした。
翌日、仕事を終え、彼がいるある喫茶店に向かった。今日は彼が主催で忘年会をやるらしい。たまたまその日だった訳だ。喫茶店の2階はギャラリーになっていて、そこに彼がいた。
見た目では全く普通の彼だ。隣には彼の友人の女性がいて何やらしゃべっている。
「わしは、あんたと会えてうれいいぞ。まずは、あんたの手を握らせてもらって・・・こらこら・・だめだ・・・スケベはいかん・・いや、そうじゃない・・男はみんなスケベなんじゃ・・・あんたもスケベじゃろう。」
「あははは、そうですね。」
女性の方は上手に話をあわせている。そこで、やってきた私に気づいた彼は
「あ、浅川さん。どうもこっち座ってください。そこに椅子がありますけど、いまちょっと神様が座ってますので、どいてもらいますね。」
「あ、すみません。いいですか?神様の座っている所に座っちゃって。」
「いや、いいですよ。ちょっとこっちの方ならだいじょうぶです。」
そう言うと、彼は右手にあった椅子を動かし、私の方に向けてくれた。私はその椅子に座って言った。
「大丈夫?今も神様居るんだ?」
「うん、そう2人居るよ。一人はエジプトかなんかの神様で、僕は仮にアラジンさんと呼んでるんだけど、あと、もう一人アラジンさんの前に出てきた仙人みたいな人で元気さんって呼んでる。」
「アラジンさんってのはまた安直な名前つけたね。」
「いやそうなんだけど、なんかエジプトって言われても名前とか思いつかなくて。」
案外、言ってることはまともである・・そ~でもないか。彼は「ちょっとまってくれ」と言って、友人の彼女に対してまた色々しゃべりだした。
「そう、あのわしじゃ、いや、私が喋りたいので・・ちょっと待って、一度に2人は無理だよ。いや、そうなんじゃ、この町にも・・あ、そうか・・男は皆・・だから『スケベ』って言いたいんでしょう?そうじゃ。あんたもそうじゃろう。」
完全に人格崩壊している。女性の方はしばらく彼の話に上手に付き合っていたが仕事の時間だというので出て行かれた。その後彼は私に向かってこう言い始めた。
「浅川さん。今日はすみません。何しろ一度に2人の神様が僕の体を使ってしゃべろうとするんで、支離滅裂に成っちゃうんですよ。で、アラジンさんが浅川さんと話したいって言ってますけどいいですか?」
「そりゃ大変だ。いいよ。話しましょう。」
「あ、そか、えと、私はアラジンです。」
彼の雰囲気が微妙に変化した。言葉使いもちょっとたどたどしい。
「あ、どうもお久しぶりです浅川です。」
勿論アラジンなんて人知らないが、ちょっと鎌掛けて『久しぶり』なんて言ってみた。どんな反応か知りたかったからだ。
「いやあ、今日、能力者の人が来るって聞いていたので、どんな人が来るんだろうと思っていましたが、浅川さんでしたか。会えて光栄です。今までお会いしたことはなかったんですが、お名前は知ってました。」
『久しぶり』という単語には、まともな反応だが、私のことを知っているというのはよく分からない。続けて彼が言った。
「私の名前を言いたいのですが、彼のからだを借りているので、彼の知らない単語は喋らせるのが難しいんですよ。発音も違うし、ここは彼の言うアラジンで通しますね。」
うーん。何となく筋は通って居るような気がする・・・気のせいか。
「アラジンさんは何処から来たんですか?」
「エジプトです。」
「エジプトのファラオから来ました。」
これはおかしい。ファラオは王様の称号で、地名ではないはずだ。続けて彼が言った。
「私はもっと喋りたいのですが、もう一人がうるさくてちょっと代わります。」
「あ、はい。」
彼の雰囲気がまた少し変わった。腰を曲げて杖を持っているような手振り。そして少し声もしゃがれて話し始めた。
「お、浅川さん。わしも知っとるぞ。この人は結構偉いんじゃぞ。なあ、皆の者も知ってるか?」
そう言うと彼は、ギャラリーの奥のほうに向き直って言った。
「今日は、浅川さんも来てくれたことじゃし、この町の皆を呼んでお祝いしようぞ。」
「え、そうなんですか?だ、誰か他にも居るんですか?」
「そうじゃよ。お主には見えないのか?ほら、この街に住んでおった者たちが霊となって来ているじゃろ。あっちの窓からドンドン集まってきとるな。」
残念ながら、私には何も見えないし何も感じない。
この後から、彼のからだを使った神様たちは、互いに彼の躰を使おうとしてドンドン発言が支離滅裂になってくる。
「そうじゃ、こっちに来てくれ。こっちの椅子に座りなされ。あ、そこは他の神様が座っとるぞ、いや、そうです。私が説明します。いや、ちょっと待ってください。今は私自身です。もう、そのままちょっと待って、ほれほれ、だから、大勢来ておるじゃろ。だって、今日の宴会で、たこ焼き作る予定なんですよ」
相当に混乱している。どうやら宴会で本当にたこ焼き作る予定だったらしいが、神様のおかげで、それが出来なかったようだ。見るに見かねてちょっと私の方から話させてもらってもいいかと?尋ねた。
「いいぞ。他の皆にも話してやってくれ。」
「わかりました。今日は皆さんお集まりいただきありがとうございます。」
と言っても私にはなんにも見えない。私は続けた。
「今、彼の中に神様がお二人いらっしゃるようですが、出来れば、無理やり躰をお使いになるのではなく、お互いに話しあって使ってください。乗り物である彼の躰をあまり酷使すると壊れてしまいますので、気をつけてお使い下さる様に皆様からも神様にお願いしてください。」
こーゆー場合は、彼のシチュエーションに合わせた形で、伝えたいことを伝えないと伝わらない。
「そうじゃ、そうじゃ。そうですね。お主が勝手に使おうとするからいかんのじゃ。いや、あなたが無理やり話すから彼が困ってるんですよ。浅川さんも言ってくれたので、気をつけなねばなるまいぞ」
軽い喧嘩が始まった。とにかく混乱が続き、この後も、ほとんどコミュニケーションが取れなくなった。どうにも騒がしいというか、自分かってな神様である。結局、宴会の方は遅れて始まり、宴会中にも、彼の言動は相当混乱していた。
「皆、悪いけどそこのガラスの壁に背中をくっつけて、座ってくれる?そうすると神様たちが喜ぶから。」
意味不明だが、彼のこの数日来の言動の異常を知っていた参加者の人達はおとなしく彼の言うとおりにし始めた。
「そうそう、いい感じ、皆も喜んでいます。」
この場合の『皆』とは神様をはじめ、この街に居る霊の人たちだ。そののち、皆の酒も進み、彼が異常なんだか酔っ払っている参加者が異常なんだかわからない状態になってきて、マイケル・ジャクソンのCDで皆も踊り狂い始めた。
私は社長を自宅まで送る時間に成ったので、そこから出ることに成った。彼のことは心配である。しかし、この場合は仕方ない。


